ご縁  その3

ある年の夏休み、我が家に初めて米国から男子高校生がホームステイにきました。
彼は日本人の父をもつ青年でした。
日本語はほとんどできなかったので、私たちは、文字や絵を書いたり辞書を片手に身ぶり手ぶりで会話しました。
彼の父は日本では名門の家系の出だったそうで、次々と話す彼のルーツの話題には驚かされっぱなしでした。
彼はアメリカンフットボールのキャプテンで成績も優秀な生徒だったのです。
その彼はまた性格も紳士的で家族がみなとても好感をもっていきました。
武士道を地で行くような彼の態度は、彼の父が米国で武道の道場をもって指導しているという環境からきてるようでした。
彼の伯父は、英国ロンドンに住み、日本人の駐在員の子弟が通う名門校の校長だということでした。
彼からホームステイの間中毎日、米国の学校生活やクラスメートの家庭のビッグな話を聞かせてもらってはカルチャーショックを受けてばかりの私でした。
彼の話しに興奮しっぱなしで10日間を過ごしました。
彼が去ってからも興奮冷めやらずしばらく夢見心地に過ごしていた私は、ある日市役所の国際交流課の顔なじみの職員と会ったので、一気に彼の話をしゃべりたてました。
彼の伯父の話になったとき、その職員の方がとてもびっくりしたのです。
「そのロンドンの校長先生は、市長の高校時代の先生です。
市長の恩師なんですよ。私は昨年市長たちとヨーロッパへ視察団としていったときロンドンでその校長先生とお会いしてきましたよ」
といわれたのです。
私たちは互いにびっくりしあいました。
それからまもなく、市の国際交流パーティがありました。
私は、これはチャンスとばかりに、米国の高校生の写真をもっていきパーティ会場に向かいました。
会場で市長の姿を見つけるとすぐに近づいていき、市長に話しかけ米国の高校生の写真を見せて説明しました。
市長は最初は驚いた様子でしたが、すぐに意味が飲み込めたようで、写真をじっくり見てから「彼はロンドンの先生と似ていますねー。また日本に来る機会があったらぜひお会いしたい」と話されたのです。
その夜、早速米国の高校生に市長とのことをメールしました。
すぐに彼から返信がきて「また日本に行ってぜひ市長に会いたい」と夢を書いてきたのです。
わたしはいつかこの二人を絶対に会わせてあげようと心ひそかに誓いました。
それから2年後、彼は日本の大学に留学することになったのです。
2年ぶりの再会です!
彼は米国の大学で日本語を学んできたそうで、カタコトで日本語の会話ができるようになっていました。
私がちょうどそのころ市民大学で国際交流について学んでいたので、講座に彼をつれていったら受講者のみなさんがとても歓待してくれました。
そのなかの一人の方が市役所の仕事をしているそうで、彼を市長に会わせる手はずを整えてくれたのです。
それからまもなく彼を市長室につれていくことができ市長と対面させることができました。
わたしはたった一人で大きなプロジェクトを成功させた気分で満足感に浸っていました。
それから、市長は彼の父や伯父の母校であり、また市長の母校でもある近くの中高大一貫校に彼が訪ねられるように連絡してくれたのです。
すぐにその学校に車でつれて行ったら、校長と年配の事務長さんが待っていていろいろな話をしてくれました。
事務長さんもこの学校の出身でほとんど彼の父と同年代だったので、彼の父が在学中のことを覚えていていろいろなエピソードを話してくれたり、ロンドンの学校に出向いて彼の伯父と一緒に仕事をしたことがあることなどを懐かしく語ってくれました。
彼の父と伯父が我が市ととても深い関わりがあったことがこのときはじめてわかったのです。

その夜、彼は米国の父にこの日の出来事を写真つきでメールしました。
米国とロンドンと日本のわが市とが一気に結びついた瞬間でした!
それから数ヵ月後、彼の両親が来日し、我が家を訪れ夕食をともにしいろいろ語り合いました。
彼の父は渡米前は我が町の隣町に住んでいたのだそうで、この辺がとても懐かしいといって思いでに浸っているようすでした。
彼がたまたま我が家にホームステイしたことでこんなにもおもしろい話が生まれたのです。
もしかしたら神さまのちょっとした遊びだったのかもしれませんねー。