橋本さん

テレビ朝日 スーパーモーニング「昭和からのメッセージ 橋本龍太郎の“遺言”で映像が流れているのを見て久しぶりに橋本さんのエピソードを思い出した。

浦和にある国際交流基金日本語研修センターにワンナイト(一泊の)ホームステイのメキシコの大学の先生を迎えに行ったときのことです。
自宅に向かう車中で「私の家にはいままでにとても珍しいエピソードをもってる方たちがたくさんホームステイにきたんですよ」といろいろな人々の話を紹介したら、彼は「実は私もおもしろい体験談をもっていますよ....わたしは昨年メキシコを訪れた日本の元総理のハシモトリュウタロウの通訳をやりました」と話しはじめたのです。
彼はメキシコの大学で日本語教師をやってるのですが、「生け花」に魅せられ、数年前は御茶ノ水の生け花の学校に留学にきていたのでした。そのときにホームステイした先が書道の先生の家だったので、書道を教えてもらったそうです。それ以来書道もすっかり気に入りいまではメキシコで書道も教えているのだそうです。
前年、政治家の友人から、日本の元総理がこられるので通訳をやってもらえないかと頼まれた彼はハシモトさんのことは全然知らなかったのですが喜んで引き受けたそうです。
歓迎レセプション会場には彼が得意の生け花を活けることをまかされ、いよいよ橋本さんに対面の時が来ました。
橋本さんに「一期一会」と書いた書を渡し自己紹介したら、橋本さんは不意な出来事に驚かれながらもとても喜ばれ「私よりもうまい書を書きますねー。日本に来る機会があったらぜひまたお会いしましょう」と言ってくださったのだそうです。

我が家へ着いた彼は、いろいろなことを語ってくれました。「私は東京の駅でたくさんの人々が歩いているのに会いました。人々の顔がとても暗いのでかわいそうになり涙がでてきました。どうして東京の人たちはあんなに悲しそうな顔をしているのですか?メキシコの人たちはお金はなくてもとても陽気な顔をしていますよ」と悲痛な顔で訴えるように話すのです。いままで気がついたことがない意外な日本の一面を指摘され戸惑ってしまいました。
メキシコにはたくさんのストリートチルドレンもいるので彼はその子どもたちに衣類の支援活動もやってるそうです。彼らの国に比べたらずっと恵まれている日本人の顔が暗いというのはどうしてなんでしょう?民族、文化の違いなんでしょうか?
その日のテレビでは昼のニュース、夜のニュースともに前橋本総理の金銭疑惑の事件がトップニュースで大きく取り上げられ橋本さんが画面に大きくアップで映し出されています。
そのたびに彼は「あ!この人だ!この人だ!私が通訳やったのは!」って画面に近づいていき大はしゃぎです!実際橋本さんが総理として活動していたのを見たこともない彼は、自分が本当に日本の元総理の通訳をやっていることが半信半疑だったそうです。このニュースを見てはじめて信じられたのです!
彼は日本にきたらぜひ橋本さんにお会いしたいと思ってきたそうです。連絡をとってほしいと頼まれたのですが、事件の真っ最中ということもありなかなか連絡がつかず、残念ながらお会いすることは断念せざるを得ないことになりました。
ホームステイのお客さまのためにゲストブックを用意してるのですが、彼は得意の書でメッセージを書いてくれました。「同じ地球に住んでいていろいろな事もちがいますけど、人間として平和を守りましょう」
墨書でメッセージを書き残していってくれたゲストはあとにも先にも彼ただ一人でした。


橋本さんがメキシコを訪問したことはとくにニュースでも聞いたことがなかったので、彼が去ったあと、橋本さんがメキシコに行ったことを検索してみたら、やはりそのニュースがでてきました。
政治家の行動も海外のニュースもほとんど自分とは関わりがないので無関心に日常を送っていた私でしたが、海外からのゲストがこんなふうに日本の話題を話すので、自ずといろいろなことに関心をもつようになっていきました。